糖尿病性腎症(発症・進展予防)

糖尿病性腎症は透析導入原疾患の1位

  • 日本透析医学会統計調査委員会報告;2015年より引用

Q1)糖尿病性腎症とはどんな病気

 糖尿病性腎症は、名前の通り糖尿病の合併症として生じてくる病気です。
糖尿病の合併症は障害される血管によって細小血管症と大血管症に分けられます。大血管症には、脳・心臓や大動脈・手足の血管の病気が含まれます。細小血管症には、眼・神経・腎臓が含まれます。
 現在、日本では約1,330万人=成人の約8人に1人が何らかの原因で慢性的に腎障害を生じているとされ、年々増加の一途にあるため“新たな国民病”と呼ばれています。
 それを背景に、不幸にして腎機能を失い透析療法を受けられる患者さんも年々増加の一途にありますが、その中で糖尿病性腎症は、透析導入原因の病気の1位を占めており、全体の45%前後を占めています。
 

Q2)糖尿病性腎症になると体にどんな変化や症状が出てきますか?

 糖尿病性腎症に限らず腎臓病は自覚症状に乏しく気づきにくい病気です。
 糖尿病性腎症は、個人差はありますが、治療を受けていても血糖管理が不十分な状況が15年前後続いた後に蛋白尿として症状がでてきます。
しかし、この時点では腎障害はかなり進行しています。
 糖尿病性腎症は病気の時期をI~V期に分けます(図2)。V期は末期腎不全に当たり透析準備を要する時期と成ります。
 通常の検査で蛋白尿が診られ始めると、腎障害はかなり進行しており病期分類では既にIII期に当たります。
 この時期でも、蛋白尿が出始めて間もなく量も少なければ、治療によって蛋白尿を出なくし腎機能を温存出来ますが、蛋白尿が出始めて時間が経ち1日1g以上の蛋白尿が出始めると腎霜害の進行を抑制出来なくなります。
 

Q3)予防や早期発見はできる?

 1つは、糖尿病の患者さんに関してです。
 先に糖尿病性腎症の病期分類についてお話しました。I~V期あるうち、I期は腎症を生じる前の腎症前期、II期は早期腎症で尿の特殊な検査で微量のアルブミンを検出する事で診断します。早期発見には、この尿中の微量のアルブミンを検出主に行ないます。発見が早いほど早期腎症から腎症前期への改善が得られ易いとされます。
 そして、腎症の進行予防に関しては
 1. まず第一に良好な血糖管理が必要です。
  UKPDSやKUMAMOTO studyなどの大規模臨床試験の結果からHbA1c<6.9%が目標と成ります。
  しかし、ここで大切な事があり、血糖管理を求めるあまり過剰な薬物投与からインスリンを過剰に分泌させた有り低血糖
  を起こしたりするとかえって肥満が増悪したり、認知症や心臓血管の合併症を生じる危険が高まる場合があり注意が必要
  です。
 2. 血糖管理に加え多面的治療として、
  生活習慣の改善;肥満の解消・禁煙、塩分制限;6g/日未満
  高血圧がなくても十分に血圧を下げる事 130/80未満
  降圧剤の選択も大切;ARB / ACE阻害剤
  高脂血症の管理;LDL-コレステロール<120mg/dl
  心血管病の合併がある場合は、
  LDL-コレステロール<100mg/d

 2つ目は、糖尿病でない患者さんに関してですが、糖尿病に成らない事が当然ながら需要です。
 2012年の厚生労働省による糖尿病実態調査では、糖尿病が強く疑われる人と可能性が否定出来ない人の推計人口は2,050万人にのぼり2002年からの10年間で約400万人の増加を見ています。
 背景には肥満が関与しています。
 生活習慣病、メタボなどの言葉がマスコミで取り上げられますが、肥満の有る方は食生活や運動不足の改善に努め肥満の解消を目指してください。
 また、肥満が無い方でも糖尿病の家族がおられる方や妊娠糖尿病の診断を受けられた経緯がある方は要注意です。
 生活習慣の改善とともに、一般検診や特定検診を活用する事が重要です。
 

図2-糖尿病腎症の診断―病期と症状

 蛋白尿の有無
 尿タンパク量の多過が、腎機能障害の進行性や心血管障害の合併リスクと関連する

Q4)糖尿病性腎症の検査や診断にはどのような方法がありますか?

 糖尿病性腎症の確定診断には、腎生検が必要です。
 実際には、糖尿病の罹病期間や腎エコー検査、血液、尿所見から診断します。
 逆に、糖尿病患者さんで腎炎などの病気を疑う場合には積極的に腎生検を行なう場合があります。
 
 先にお話しした糖尿病性腎症の病期診断には、尿中の微量アルブミンの量、尿タパク量、腎臓の機能のうちGFR;糸球体濾過値を用います。
 

Q5)検査によって糖尿病性腎臓と診断された場合、どのような治療法がある ?

 糖尿病性腎症の進行予防、寛解・治癒の為には、先にお話ししたように十分な血糖管理が重要です。
 その上で、前出の多面的治療による管理が重要と成ります。
 それらを行なっても、腎症III期以降で、高度蛋白尿を呈している患者さんでは、現在の医療では腎症の進行が押さえられないのが現状です。
 
 また、腎症III期以降は、腎機能の低下に伴って心臓血管の合併症が生じ易くなる事が知られています。
 腎症を進行させない事が重要と考えます

Q6)糖尿病性腎臓に罹らないために日常生活で気を付けることは?

 肥満があり体のインスリン必要量が増加している事に加え、塩分の過剰摂取やタンパク質の過剰摂取は腎症の進展因子と考えられます。
 前出の血糖を含めた多面的治療を行なうと同時に、これらの進展因子が有る方では、バランスの良い食事や適切な運動療法を行ないながら、毎日、自分で出来る検査として血圧、体重測定を励行して生活習慣の改善に努める事が大切です。

メッセージ

 大人で発症するII型糖尿病は、先で述べましたように年々増加の一途にあります。
 過食、運動不足を背景としており、糖尿病合併症のみならず癌や認知症の発症にも関与が指摘されています。現在の生活に根ざしたまさに現代病と考えられます。
 そして、これらお合併症が進むまでは自覚症状が無い事がこの病気の怖さです。
 生活に根ざしている分、薬での治療のみでは不十分であり、過食の改善、運動不足の改善など生活習慣の改善など医療と患者さんの自己管理が共同して進む事が重要です。
 食べることをただ我慢するのは難しい場合もありますが、病気の怖さを改めて意識して頂き、自分で出来る検査としての自宅血圧、体重測定を毎日行なう事、可能な方は主治医と相談して自己血統測定を行なう事でこの病気と闘って行ってほしいと考えます。

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