前立腺がん

済生会下関総合病院の前立腺がん診療の特徴

 当院では、山口県内では初めて、日本では111番目の施設として前立腺癌に対する密封小線源治療を平成23年11月より開始致しました。本治療は、前立腺癌に対する根治的治療のひとつです。この治療は、すでに米国では手術と同程度に施行されている標準的治療のひとつとなっており、全米の約1,100施設で施行され、年間約6万人の方がこの治療を受けておられます。本治療は手術に比べ、入院期間が短く(標準3泊4日)、身体的な負担や副作用も少なく、病気の状態によっては手術とほぼ同等の治療効果が期待できる治療法です。治療成績も手術療法と比較し極めて良好で、低・中間リスク前立腺癌での再発率は平均観察期間36か月で0.5%です。症例数も急増し、全国でも上位10施設に入っており、平成28年度末までに約300名の治療を行ないました。
 
 手術療法としては、腹腔鏡と小切開を組み合わせ、気腹(おなかの中にガスを入れ手手術をする方法)を行わない、腹腔鏡下小切開根治的前立腺全摘除術(別項目で詳細に解説)を行っています。利点として、お腹を大きく切らずに治療を受けることができ、傷も小さくてすみます。内視鏡(カメラ) を併用することにより、小さな穴から体腔内を詳しく観察できます。 体表の傷が小さいため、術後の疼痛も軽減されます。

前立腺がんの治療選択

 早期がんには手術、放射線治療(前立腺癌密封小線源療法)もしくは無治療経過観察(PSA監視療法)を施行し、局所進行がんには前立腺癌密封小線源療法と外照射の併用、手術と外照射のいずれかに一時的ホルモン治療を加えた併用療法(トリモダリティ)を施行しています。
 手術と放射線の選択には患者さんの意向を考慮しますが、最近では早期がんや限局がんの増加に伴い前立腺癌密封小線源療法(ブラキ療法)(前立腺癌密封小線源療法の項目を参照下さい)を行う患者さんが増える傾向にあります。

前立腺の解剖

 前立腺は精液の一部を作る男性固有の臓器です。前立腺は尿道をぐるりと取り囲んでおり、普通は3~4cm大のクルミの大きさです。また、直腸に接して存在し、肛門から指で簡単に触れることができるため、直腸診という診察が前立腺の病気の診断に有用です。 正常な前立腺は円錐形を呈し、主に移行域と呼ばれる内腺部と辺縁域と呼ばれる外腺部からなります。良性の前立腺肥大症は移行域から、がんの多く(約70%)は周辺域から発生します。

前立腺がんの統計

 米国では男子がんのうち第一位の発生率(人口10万人対190人/1992年)で、死亡率は肺がんに次いで第二位です。わが国でも近年、著しい勢いで増加しており、2006年には年間約42,000人の方が新たに前立腺癌と診断され、2011年にはその数が78,000人と大幅に増えています。死亡者数も2020年にはその数が、2000年(約7,500人)の3倍になると予想されています。

前立腺がんの症状

早期がん

 無症状です。前立腺がんの70%は前立腺の辺縁域(外腺部)に発生しますので、早期には全く無症状です。ただし、移行域(内腺部)に発生し、早期より症状を呈する前立腺肥大症という病気が、がんにしばしば合併して発生するので、その場合は次に述べるような症状がみられます。

局所進行がん

 前立腺肥大症と同様な症状がみられます。すなわち、前立腺が尿道を圧迫するため、頻尿(尿の回数が多い、特に夜間)、尿が出にくい、尿線が細く時間がかかる、タラタラ垂れる、尿線が中絶する、等の症状が見られます。このほか、がんが尿道、射精管、勃起神経に浸潤すると血尿、血精液(精液が赤い)、インポテンス(ED)等の症状も見られます。

進行転移がん

 前立腺がんはリンパ節と骨(特に脊柱と骨盤骨)に転移しやすいがんです。リンパ節に転移すると下肢のむくみ、骨に転移すると痛みや下半身の麻痺が生じることがあります。
 

前立腺がんの診断

血中PSA(前立腺特異抗原)測定

 少量の血液を検査するだけの簡便な方法です。PSAは前立腺がんのスクリーニング、診断はもちろん、がんの進行度の推定、治療効果の判定、再発の診断、そして予後の予測にも役立ちます。

経直腸エコー検査

 肛門から行う超音波検査です。前立腺内部の異常の有無を観察します。

生検検査

 血液検査でPSA(前立腺特異抗原)という物質が高い値の時は肥大症や炎症以外に前立腺の癌が疑われます。触診(肛門から指を入れ前立腺を調べる診察) や超音波検査なども前立腺の癌を診断する手段です。しかしいずれの検査も、疑いにとどまるだけで確定には至りません。前立腺癌の診断を確定する唯一の方法は、前立腺の細胞を採取することです。それが前立腺生検です。

前立腺がんの治療

 現在、わが国において猛烈な勢いで増えている前立腺がんの治療法には、大きく分けると手術、放射線療法(密封小線源療法と外照射)、内分泌(ホルモン)療法、および無治療経過観察(積極的監視療法)の4通りがあります。
当院の治療として特徴的な前立腺癌密封小線源療法と腹腔鏡下小切開前立腺全摘除術について詳細に説明します。

内分泌治療(ホルモン治療)

 初回ホルモン治療にはLHRHアゴニスト(注射)、手術により両側の睾丸(精巣)を摘除する外科的去勢、抗男性ホルモン(アンチアンドロゲン)剤の内服があります。これらを併用する場合もあります。副作用としては、ほてり、発汗、肥満、筋力の低下などが見られることがあります。
 具体的には、黄体ホルモン・分泌刺激ホルモン(Luteinizing Hormone-Releasing Hormone: LH-RH)アナログであるリュープレライド(リュープリン®: 武田薬品)やLH-RHアンタゴニストのデガレリクス(ゴナックス®: アステラス)が使用可能になりました。この製品には、リュープリンと異なり、従来のLH-RHアナログ使用開始時の一過性のLH上昇を認めないという長所があります。反面、デガレリクスにはまだ3か月製剤はないので、従来のリュープレライドやゴセレリンとの使い分けが必要です。

監視療法(無治療経過観察)

 なんら治療せずに厳重に経過観察のみを行なう方法です。
 治療法にはそれぞれ副作用が必ず伴いますから、現在の生活の質を大切にしたい場合、がんが微少で病理学的悪性度が低い場合、症状のない超高齢者の場合などが適応となります。多くは2-6ヶ月毎のPSA採血による経過観察が中心です。病状の進行が心配される場合にはもちろん治療を開始します。

化学療法

 2008年にドセタキセルの前立腺癌に対する使用が承認されました。ドセタキセルの副作用では、下痢や吐き気、食欲不振、口内炎などの消化器症状や、脱毛、発疹、白血球低下による感染症状などが一般的です。この他、進行期前立腺癌患者さんでは骨転移を認めることが多いのですが、骨転移に対してはゾレドロン酸(ゾメタ®: ノバルティスファーマ)の点滴投与やデノスマブ(ランマーク®: 第一三共)の皮下注射が推奨されています。新規タキサン系抗がん剤カバジタキセル(サノフィ・アヴェンティス)も現在使用できるようになっています。

新規治療薬

 去勢抵抗性前立腺癌に対する新しい内服治療薬として、イクスタンジ(エンザルタマイド)(アステラス)が使用できるようになりました。これは、新規の男性ホルモン受容体阻害剤で、テストステロン-アンドロゲン受容体結合阻害、受容体の核内移行阻害、さらにコアクチベーターとの結合の阻害に働きます。また、ザイティガ(アビラテロン)(ヤンセンファーマ)は、男性ホルモン合成に関与する酵素CYP17(17α-hydroxylase/C17,20-lyase複合体)を選択的阻害する薬剤です。

手術療法

 腹腔鏡下小切開前立腺全摘除術の項目を参照下さい

放射線療法

 前立腺癌密封小線源療法の項目をご参照ください

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