人工括約筋(AMS-800)埋込み手術

人工括約筋(AMS-800)埋込み手術

 尿失禁は様々な原因から発生します。尿失禁は膀胱に原因がある場合と、尿道括約筋に原因がある場合とに分類できます。このうち、前立腺の手術後などの尿道括約筋に原因がある場合に人工尿道括約筋の植え込みが良い治療方法となります。
 人工括約筋埋込み手術は平成24年4月から健康保険が使用できるようになりました。

尿道括約筋に原因がある尿失禁の治療

 尿失禁とは尿が漏れることをいいます。今回の手術の適応となる方は尿道括約筋に原因があり、尿道括約筋の機能が十分果たせないために重症の尿失禁となっている方です。
 尿道括約筋機能が低下する原因として先天性の疾患によるもの、外傷(骨盤骨折など)によるもの、前立腺癌や膀胱癌、前立腺肥大症などの手術によるものが知られています。
 一般的な方法での治療が難しい場合に人工括約筋留置術の適応となります。

人工括約筋埋込み術の実際

 人工括約筋は尿道の周りにシリコン製のチューブを巻き付けその中に液体を充填することで尿道を圧迫し、尿失禁を治療します。この手術は全身麻酔下に行う必要があり、全身麻酔をかけることに問題がある場合には受けることができません。
 人工括約筋は3つのパーツに分かれています。尿道を圧迫する部分、液体を貯留しておく部分、陰嚢内に設置して尿道括約筋を動かすスイッチとなる部分です。このうち、尿道の部分にはあなたの尿道のサイズに合わせたサイズの部品を埋込みます。このうち、スイッチの部分には少量の金属が使用されています。現在確認できるもっとも出力の高いMRIの磁気でも反応しないことから、MRIの検査を受けることに支障はありません。また飛行機に搭乗する前の金属探知機でも問題ないことが確認されています。

人工括約筋の作動原理

 腹部に埋め込んだリザーバーバルーン内の液体と尿道に巻きつけられたカフ内の圧が一定になることにより尿道を圧迫し、尿が漏れないように保ちます。排尿時には陰嚢内に留置したコントロールポンプを自分で圧迫することにより、尿道周囲のカフ内の液体を一時的に腹部のリザーバーバルーン内に送り込みます(下図左)。その結果、尿道の圧迫が解除され排尿が可能となります(下図右)。排尿後はリザーバーバルーンから数分間かけて徐々に液体がカフに戻り、尿道を圧迫して尿を漏らさない状態にします。

人工括約筋の成績

 人工括約筋埋め込み手術を受けた後には、ほとんどの方で尿失禁は著明に改善します。小さな尿取りパッドの使用枚数が一日一枚以内で済む方が90%以上といわれています。
 人工物を体内に埋め込むために、術後の感染に注意が必要です。また、機器のトラブルは少ないといわれてはいますが、全くゼロではありません。

人工括約筋の注意点

 人工括約筋埋め込み手術を受けた後、6週間ほどして人工括約筋が働きます。それまでは、手術前と尿失禁の程度は同じです。もし手術の直後から尿失禁が消失している時には異常ですので、すぐに連絡してください。
 人工括約筋が閉じている時に尿道にカテーテルを留置すると尿道が壊死してしまいます。人工括約筋を留置している患者さんには、留置していることを示すカードをお渡ししますので、他院で、入院や手術を受けられる場合にはカードを提示するか、人工括約筋が留置されていることを伝えてください。

人工括約筋の合併症

 合併症としては尿道の糜爛(びらん)が5%報告されています。尿道に直接人工括約筋が視認できる状態で、尿閉や尿失禁を起こします。カフの除去と再留置が必要です。
 感染が2.7%報告されています。抗生剤による保存的治療で治癒する場合はよいですが、感染が治まらない場合には人工括約筋をいったん除去し感染が完全におさまってから再留置することが必要です。
 また、機器のトラブルは少ないといわれてはいますが、全くゼロではありません。

ページの先頭へ