ウルフ‐オオツカ法 (胸腔鏡下左心耳切除術およびアブレーション手術)

ウルフ‐オオツカ法 (Wolf-Ohtsuka:WO手術)


 心臓が脳を攻撃する病気があることをご存知でしょうか?
 プロ野球元監督の長嶋茂雄さんやサッカー日本元代表監督のオシムさんが脳梗塞になられたことをご存知の方は多いと思います。
 なぜ体の丈夫なお元気な方が突然、脳梗塞になられたのでしょうか。
 脳梗塞の原因は様々ですが、約3割の方が心臓が原因と言われております。心原性脳梗塞と呼ばれます。心原性脳梗塞のほとんどの原因が心房細動という不整脈から来ると言われております。心房細動とは年齢とともに発症する人が増えていく病気で80歳以上の人口約10%がかかると言われています。

 心臓には部屋が4つあるとよく聞かれると思いますが、左心房、左心室、右心房、右心室 に分けられます。血液の流れは、全身から戻ってきた血液が右心房にたまり、右心室へ運ばれます。その後肺に運ばれ、酸素を取り込んだ血液は、左心房へと進み、左心室から全身へと流れていきます。心臓が規則正しく収縮している間は、血液はスムースに心臓から全身へと流れていきます。ところが、心房細動では血液の流れがスムースに行かなくなります。
 心房が規則正しく収縮しなくなると、心房で血栓がすぐ出来てしまいます。そのほとんどの血栓は左心耳というところで出来ます。左心耳は左心房の一部で、犬の耳のような形をして、左心房から飛び出した空間を形成しています。 心房がきちんと収縮していれば、左心耳での血液は澱むことなく流れていきますが、心房細動になると血液のよどみが左心耳の中でできるため、澱んだ血液はすぐに固まってしまいます。左心耳で固まった血液のかたまり、いわゆる血栓ですが、これが心臓から出ていく血液の流れに沿って、全身へ飛んでいってしまうことがあります。この血栓が運悪く脳の方に飛んでしまったら、脳の血管を塞いでしまい、脳梗塞を引き起こしてしまうわけです。
 

 
 このように心房細動という病気は放置しておくと脳梗塞をきたしてしまう可能性が高いため、予防が必要となります。 もっとも一般的な治療法は抗凝固薬を一生飲み続けることです。抗凝固薬とは、血液を固まりにくくし血栓ができにくくする役目をします。血栓ができやすい心臓にとっては、内服し続ける限り脳梗塞の発症は年間2-4%に抑えられると言われております。しかしながら、抗凝固薬を飲み続けることで、高齢になればなるほど血液が固まりにくいという副作用が増えてきます。出血が止まりにくいとか、下血をしやすくなるなどの副作用で、時には命を落とすかたもおられます。抗凝固薬はもろ刃の剣な訳です。また一生内服が必要となるため、薬代もばかになりません(新しい抗凝固薬は一日の薬価が546円)。


 では左心耳がなければどうなるでしょうか。心房細動でできる血栓が左心耳であるとするならば、左心耳を塞いだり取り除いたりすれば良いのです。
 左心耳を塞いだり取り除いたりする方法はいくつか考えられてきています。カテーテルで塞ぐデバイスも開発されてきておりますが、現時点では成績はあまり良いとは言えません。ほとんど内服と変わらない成績で、抗凝固薬の離脱は困難な方が多いのが実情です。しかも高額な医療費がかかります(Watchmanという日本で使用できるデバイス費用は147万円と高額です)。
 
 一方で、我々が行なっている、ウルフ‐オオツカ法、胸腔鏡下左心耳閉鎖術は左心耳の入り口を完全に塞ぐことが可能となります。5mmから10mm程度の穴を胸の壁に4ヶ所開けるだけで傷もほとんど目立ちません。ウルフ‐オオツカ(Wolf-Ohtsuka : WO)法と言います。手術に用いられる自動吻合器代も6万円と、Watchmanに比べるとかなり安価です。手術時間も30分から1時間程度で、入院期間も3日から7日程度です。この手術の最大の利点は、術後の抗凝固薬の中止が可能となることです。大塚博士のデーターによると左心耳切除を行われた心房細動の患者さんは、抗凝固薬を中止しても年間0.25-0.5%の人しか脳梗塞にならないと言われております。アメリカやヨーロッパの施設からも同様な成績が報告されております。また、費用も一生薬を内服する方法や、カテーテルデバイスで閉鎖する方法よりもずっと安くすみます。

 


 

 繰り返しになりますが、左心耳がある限り、抗凝固薬を内服しても年間2-4%の 脳梗塞の危険がありまた同じ頻度で重篤な出血をきたすと言われておりますから、特に出血の危険の高まる70歳以上の高齢の患者さんにとっては、ウルフ‐オオツカ法による左心耳閉鎖術を受けられるメリットは大きいと考えております。
 

ウルフ‐オオツカ法 手術のイメージ

 

手術のイメージ

 

 当院ではこのような観点から、2017年よりウルフ‐オオツカ法 (胸腔鏡下左心耳閉鎖術)を開始し、通算130症例(2023年4月時点)の患者さんに行なってまいりました。ほとんどの患者さんが抗凝固薬を離脱され経過は順調です。脳梗塞の心配も、また抗凝固薬内服を続けた際の出血の不安からも解放されておられます。
 また、胸腔鏡下左心耳閉鎖術の際に、不整脈の手術も同時に行っております。内科でカテーテルアブレーション(カテーテルでの不整脈治療 電気焼灼術)を受けられたのち再発した患者さんに対しても、左心耳閉鎖術の際に同時に胸腔鏡での不整脈治療(アブレーション)を行い、それまで起こっていた不整脈が止まったと言われる患者さんもおられます。ウルフ‐オオツカ法による不整脈治療の成績も良好で、約8割の患者さんが治っています。
 このように、ウルフ‐オオツカ法は、左心耳を閉鎖して脳梗塞を防ぐ治療と、心房細動を治癒しせめる不整脈治療という2刀流の治療方法です。一度の入院、手術で2つの治療が完結してしまいます。現在世界からウルフ‐オオツカ法は注目されている新しい治療方法です。

 胸腔鏡下左心耳閉鎖術および不整脈治療(アブレーション)(ウルフ‐オオツカ法)行なっている施設は全国的にも珍しく、山口県、北九州では当院が唯一の施設です。

  現在のところウルフ‐オオツカ法を受けられるために東京まで行かれる方も多いですが、当院は、今後山口県各地はもとより、西日本での拠点病院としての役割を担ってまいりたいと思います。

新聞記事 ウルフ‐オオツカ法


 

学会発表 ウルフ‐オオツカ法

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